ハドリアヌス帝の回想1ー 忖度嫌い
帝政ローマ時代の最盛期、五賢帝の一人といわれるハドリアヌス帝。
正義を愛する偉大な皇帝だったのか、残虐な専制君主だったのか。
その統治の歴史的な評価は大きく分かれるようですが、
基本的にはそれまでの領土拡大方針を変更し、平和路線に基づく外交政策を推し進めました。
ギリシャで学び、旅と芸術と青年を深く愛したこの人物には人々の関心を引く魅力があります。
Le coup d’oeil oblique du patron de taverne qui me réserve le meilleur vin, et par conséquent en prive quelqu’un d’autre, suffisait déjà, aux jours de ma jeunesse, à me dégoûter des amusements de Rome. Il me déplât qu’un créature croie pouvoir escompter mon désir, le prévoir, mécaniquement s’adapter à ce qu’elle suppose mon choix.
私に極上のブドウ酒をとっておいてくれる、したがって他の客からそれを取りあげている、居酒屋の亭主の流し目のめくばせだけで、若い頃すでにわたしをしてローマの歓楽を嫌悪させるに十分であった。ひとりの者がわたしの欲望を見越し、それを当てこみ、わたしの選びそうなものに機械的に応じうると信じているのを見るのは不愉快である。
Marguerite Yourcenar, Mémoires d’Hadrien(『ハドリアヌス帝の回想』 多田智満子訳)より
ひところ日本では政治家に対する忖度という話がよく取り沙汰されましたが、
このハドリアヌス帝には逆効果。ちょっとひねくれ者で面倒くさい人かも…
とも思われますが、わたしもどちらかと言えば同じように感じる質なので愛しくなりました
(とはいえ、わたしには誰もそんなに阿ってくれるわけではありません)。